To Know Contentment(足るを知る)
実際、たとえば大病をすると、名誉、地位、お金などに何の意味もないことが切実にわかります。そして、無名でも無職でも貧乏でも、健康でいるだけで幸せだとうらやましくなります。
私の知っているある学者は、社会的な名誉のすべてを手に入れたといえる人です。この日本で定員がわずか百五十人しかいない学士院会員ですし、偉大な業績もあげました。
ところが、彼はある時、脳梗塞になり、体が不自由なったばかりか口もほとんどきけなくなったのです。すると、彼は健康さえ取り戻せるなら、学士院会員も学士院賞もみな誰にでもさしあげると、不自由な口でとつとつと述べたのです。
これなどは、病気の恐ろしさを端的に示した例と思われます。
多くの人は健康で一生を送れるとどこかで甘く思い、欲望のままに生きているのですが、病気になればすべてを失います。
そして、この事実は、病気になる前にはわからないのです。
老子はさらに言っています。
「足るを知れば辱(はずかし)められず(満足すれば消耗することはなくなる)
止(とど)まるを知れば殆(あや)うからず(限度を知れば危険は避けられる)
もって長久(ちょうきゅう)なるべし(そして長生きできる)」
この言葉も、私からすると、ブッダの言葉の丸写しのように聞こえます。
【 『イヤな思いがスーッと消えるブッダのひと言』 高田明和 中経の文庫 】
仏教では、人間の欲にはきりがないことを教えています。持てば持つほど更に欲しくなり、止まることを知らないといいます。上記の話では、大病にかかったある学者が、積み上げてきた社会的名誉(欲)が何の意味も持たなかったことを示す良い例です。
このようなことから、お釈迦さまは節度(限度)を知ることの大切さを教えられます。「足るを知る者は幸せである(Fortune are those who know contentment.)」といわれますように、節度を知ることは、「もって長久なるべし(そして長生きできる)」とありますように、長生きの秘訣と言ってもいいでしょう。