Habituation(慣れ)
21年前に東京―新大阪間に「新幹線のぞみ号」が登場した時の試乗記を書いた鉄道紀行作家の故宮脇俊三氏が、このような感想を書いています。「時速270キロに達した瞬間はスリルを感じたものの、たちまちそれが当然のことのように思えてくる。速さに慣れる習性は恐ろしい」(朝日新聞「天声人語」)
新幹線といえば、14年後にリニア新幹線の走行が決まり、その最高スピードは時速505キロだとか。人はこのスピードにもほどなく慣れてしまうように思えてきます。
一方、この‘速さ’の慣れもさることながら、臭覚や視覚の慣れも相当なものだな、と思われる事例があります。現在90歳代の男性のニューギニアにおける戦争体験談を聞いたことがあるのですが、その人はこのように語っていました。「慣れてくると、まわりに転がっている腐敗した死体の、鼻をつく異臭の中で平気で食事をするようになった」と。
人のこのような慣れという習性を、物事に対する順応性と捉えるのは無理でしょうね。やはり感覚の麻痺とでも考えるのが妥当でしょうか。
おどろかすかひこそなけれ村すずめ
耳なれぬればなるこにぞのる(御一代記聞書)
(群がる雀を驚かして追い払う鳴子の音も、今では効き目がなくなった。耳慣れた雀たち平気で鳴子に乗っている)______ 雀の慣れも人間同様すごいですね。
「おどろかすかひこそ 〜 なるこにぞのる」
It is useless to surprise village sparrows. They sit nonchalantly even on a clapper as
they have got accustomed to its claps.