お慈悲のままに

日々、思ったことを綴っていきます~(ちょっと英語もまじえて)。私の趣味は‘英語を楽しむこと’です。その一環として少し英語を取り入れることにしました。

Translation(翻訳)

 今年5月27日、オバマ大統領がアメリカ大統領として初めて被爆地の広島を訪れ、原爆慰霊碑の前で演説をしました。その演説の冒頭の一文は次のようです。         

Seventy-one years ago, on a bright cloudless morning, death fell from the sky
and the world was changed.


 この大統領の行った演説の全翻訳文の内の数文を、池上彰氏(ジャーナリスト、著作家)が5月28日付朝日新聞のコラムで取り上げ、新聞各紙による日本語訳を比較した文が掲載されていました。次は、上記英文の各紙の日本語訳です。               


 <71年前、明るく雲一つない晴れ渡った朝、死が空から降り、世界が変わってしまいました>(朝日)                                  
 <71年前、晴天の朝、空から死が降ってきて世界が変わりました>(毎日)      
 <71年前の快晴の朝、空から死が降ってきて、世界は変わってしまった>(読売)   
 <71年前のよく晴れた雲の無い朝、空から死が降ってきて世界が変わった>(日経)  
 <71年前、雲一つない明るい朝、空から死が落ちてきて、世界は変わった>(中国新聞) 


 元は一つの英文ですが、各紙の表現の仕方には、それぞれに少しずつ違いがあります。池上氏は、「英語の演説には独特のリズムがあるので、日本語に訳すとき、そのリズム感を生かすことはむずかしいものである。だから、大統領が演説した内容をどう伝えればよかったのだろうか」と、翻訳の難しさを述べておられます。                 


 もちろん、池上氏の言葉は、演説を念頭に置いた立場からのものですから、演説を生かす翻訳には工夫すべき点があるかとも思います。ただその点を除けば、オバマ大統領の意図せんとすることは、他の例文も含め、どの新聞の訳文からも十分に伝わってくると私は思いました。                                      


 翻訳の最重要点は、原文の内容を曲解せずに、そのまま伝えることにあります。でも、このことが難しいのですね。“Translators, traitors.” <翻訳者は裏切り者(翻訳は原作とは別のもの)>という言葉がそれを物語っていると思います。


 今回の「翻訳」が話題にされたことで、私は歴史に残る仏典の翻訳に思いをはせていました。今日まで仏教が脈々と受け継がれてきた背後には、如何に正確に伝えるかという点で、多くの翻訳家たちの並々ならぬ苦労や努力や困難なことがあっただろうと、少なくともそのようなことだけは理解できる気がします。その人たちのお陰で今、私たちが仏教を聞けるのは間違いないのですから、有り難いことであり、本当に感謝すべきことだと思うのです。