With No Conditions（注文なし）

　ある時、伊勢から女性のお同行が、「おそのさん」のところへやってきました。そのお同行が尋ねたことは、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「長いことお聴聞しておりますが、どうしても疑いが晴れません。後生こそ一大事と言われますが、その一大事が一大事と思えないし、阿弥陀さまの救いが本当とも思えない。どうしてもこの疑い心が晴れませんが、どうしたらよろしいでしょうか。何かよい秘法でもあったら聞かせてくださいませ」　　　　　　　　
とお願いしました。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
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（「おそのさん」から）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　「如来さまの仰せじゃと思うてな、お差し支えなし、ご注文なし、お差し支えなし、ご注文なし、これだけの言葉を二、三年言うてみなされ、何の注文もせんぞ、何の差し支えもないぞと、仏さまはおっしゃっているのですから」　　　　
と言われて、その女性は、「お差し支えなし、ご注文なし、お差し支えなし、ご注文なし」と言いながら帰ってゆきました。　　　　　　　　　　　　　　　　
それから三日か四日経った頃、また例の女性が訪ねてきました。　　　　　　　
「この間は有難うございました。おっしゃったとおり、あれから毎日、お差し支えなし、ご注文なし、お差し支えなし、ご注文なし、と言いながら暮らしておりますが、私の心は何の変哲もございません。どうしたものでしょうか」　　　　
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　その時「おそのさん」は、厳しく「お差し支えなし、ご注文なし」と言いました。それを聞いた時、その女性は、彼女の心に沁みとおったのでしょう。　　　
　「あっ、仏さまそうおっしゃっているのですね、如来さまのお言葉であることに初めて気がつきました。今までは私の心を眺めて、こいつが聞いてくれない、わかってくれないと、自分の心ばかりを眺めて、直そう、直そうと考えておりましたが、自分で心得違いを直せるような者じゃあございませんでしたなあ。有難うございました」
と言って、「お差し支えなし、ご注文なし」と言いながら帰っていったそうです。（説法：梯實圓）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　【　『妙好人に学ぶ』　梯　實圓　/　松田正典　】　　　　　　　　　　
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　「おそのさん」という人は、さすが「三河（今の愛知県）のおそのさん」という呼び名で知られた妙好人です。彼女の、求道者に対する導き方に感心しました。ここで言われているように、阿弥陀さまは常に「差し支えなし、注文なし」と、私たちをお呼びづめです。つまり、阿弥陀さまは、「自分の心得違いを直したら助ける」とか、「善を積んだら助ける」とか、「地獄一定の自分だとわかったら助ける」などと、私たちに注文をつけられることはありません。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　煩悩まみれの私たちを、そのまま、無条件で、今、助けると仰っています。聞き間違いのないようにしなければなりません。　　　　　　　　　　　　　　　
(Amida Buddha vows that he saves us filled with blind passions as we are, with no
conditions and at present. We must be careful not to mistakenly hear what he says.)